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特定天井の技術基準

Last updated on 2023年7月19日

稀に特定天井に関する仕事をいただくのですが、間が空きすぎて忘れてしまうので、簡単にまとめておきます^^;

平成13年の芸予地震、平成15年の十勝沖地震、平成17年の宮城県沖地震、そして平成23年の東日本大震災。
これらの地震時に、体育館や空港ターミナルビル、屋内プール、体育館、大規模ホール等の天井が脱落し、大きな被害が発生しました。
これを受けて、平成26年(2014年)4月1日に、建築基準法施行令第39条に第3項が新設され、大臣が指定する「特定天井」について、大臣が定める技術基準に従って脱落防止対策を講ずべきことが定められました。

 

天井の耐震化に関する基準等の変遷

平成25(2013)年8月 文部科学省「学校施設における天井等落下防止対策のための手引」を発行
 特定天井に加えて、天井高6m超、水平投影面積200㎡超のいずれかに該当する学校の体育館などの吊り天井を「特定天井に準ずる天井」とし、全国的に総点検を促し、平成25~27(2013~2015)年の3年間で撤去を中心とした落下防止対策を重点的に行ってきた。
平成25(2013)年10月 一般社団法人建築性能基準推進協会が「建築物における天井脱落対策に係る技術基準の解説」(以下、「技術基準の解説」と呼ぶ)を公開
 特定天井の技術基準の解説、「天井及びその部材・接合部の耐力・剛性の設定方法」及び「特定天井の設計例」を掲載
平成26(2014)年4月 国土交通省告示第771号「特定天井及び特定天井の構造耐力上安全な構造方法を定める件」が施行
 大空間の天井を特定天井とし、技術基準を策定
平成27(2015)年1月 日本建築学会「天井等の非構造材の落下に対する安全対策指針・同解説」が出版
 天井の安全性をより広く捉えて天井レス化、軽量柔軟化、天井取付部材の準構造化、フェイルセーフなどを示した。

 

特定天井とは

以下の全ての項目に該当する吊り天井は、特定天井(脱落によって重大な危害を生ずるおそれがあるものとして国土交通大臣が定める天井)として、「構造耐力上安全なもの」としなければなりません。

① 居室、廊下その他の人が日常立ち入る場所に設けられるもの。
② 高さが6mを超える天井の部分で、その水平投影面積が200㎡を超えるもの。
③ 天井面構成部材等の質量が2kg/㎡を超えるもの。

日常立ち入る場所以外の場所としては、機械室や無人の工場などが該当します。高さ6m超えというのは、位置エネルギーが大きくなり、脱落によって重大な人的被害が生ずる可能性が高いためです。また、200㎡超えは、地震発生時に即座に安全な場所へ避難するのが難しいという観点から定められています。

「構造耐力上安全なもの」とするには以下の3つのルートがあります。

1.仕様ルート(一定の仕様に適合させる)
2.計算ルート(計算により安全性を検証する)
3.大臣認定ルート(天井の大臣認定(令39条第3項)or 躯体が時刻歴計算しているもの(法20条第一号))

中地震時に天井の損傷を防止することにより、中地震を超える一定の地震時においても天井の脱落の低減を図ります。

特定天井は「吊り天井」を対象としているため、構造躯体と一体となった部分に天井下地材や天井板を直接設ける「直天井」は対象外です。

 

🤔吊り天井とは?(平成25年国土交通省告示第771号より)

一 吊り天井 天井のうち、構造耐力上主要な部分又は支持構造部(以下「構造耐力上主要な部分等」という。)から天井面構成部材を吊り材により吊り下げる構造の天井をいう。

五 吊り材 吊りボルト、ハンガーその他の構造耐力上主要な部分等から天井面構成部材を釣るための部材をいう。

吊り天井には、鋼製下地材を用いて下地を組み、せっこうボード等で天井面を構成する一般的な「在来工法による吊り天井」と、単位天井を組み合わせた吊り天井で、天井パネルとして主に吸音材料を載せ掛け、照明器具、空調吹き出し口などの設備の取付けが容易にできる機能をもつ「システム天井」があります。

なお、支持構造部とは、天井材を支持する構造耐力上主要な部分以外の部分であり、照明器具、ダクト、音響設備等を設置するために構造耐力上主要な部分に緊結された「ぶどう棚」等が該当します。

 

仕様ルート

【仕様ルート】は、告示の基準に適合させればよいので計算書の提出は省略できますが、「技術基準の解説」の「特定天井の設計例」では、(参考として?)各部の計算例が載せられています。【仕様ルート】では次の手順で設計します。

・水平震度k(0.5~2.2)を算定し、天井面構成部材の総重量Wを乗じて地震力を求める。
・地震力の大きさと、斜め部材の断面性能から斜め部材の必要組数を求め、天井面をゾーニングして釣り合いよく配置する。

【仕様ルート】では、主に以下のような基準に適合させる必要があります。

・天井面構成部材等の質量は20kg/㎡以下とする。
・吊り材の本数は、平均1本/㎡以上とする。(6kg/㎡以下のものは0.5本/㎡以上)
・吊り長さは3m以下でおおむね均一とする。
・周囲との隙間は6cm以上とする。(特別な調査又は研究の結果による場合は6cmより小さくしてもOK)

これは「隙間あり天井(平成25年基準)」の【仕様ルート】であり、周囲との隙間を設ける必要がありますが、天井と周囲の壁等との間に隙間を設けない仕様についてのニーズに応えるために、平成28年に「隙間なし天井(平成28年基準)」の【仕様ルート】が追加されました。(現在はまだ、「隙間なし天井」の【計算ルート】はありません。【仕様ルート】に該当しない「隙間なし天井」は【大臣認定ルート】で設計することになります。)

「隙間なし天井」は、地震時に天井面に加わる外力を、天井面構成部材及び周囲の壁等を介して構造躯体に伝達することにより、構造耐力上の安全性を確保しようとするものとなっています。

隙間なし天井」の【仕様ルート】の主な仕様規定は以下のようになっています。

・天井面構成部材等の質量は、20kg/㎡以下とする。
・吊り材の本数は、平均1本/㎡以上とする。
・吊り材自体の振動が大きくならないように、吊り長さは原則として1.5m以下とする。
(共振を有効に防止する補剛材等を設けた場合は3m以下でもOK)
・天井の面内圧縮力で地震力を伝達させるため、天井面は水平とする。
(天井面が水平のまま吊り長さが変化するのはOKだが、天井面に段差を設けたり、斜めの天井はNG)
・天井面構成部材、および周囲の壁・梁などは、十分な剛性・強度を有するものとする。(システム天井は対象外)
建物の層間変形に追随できるように、斜め部材を設けない。
・天井面の最大長さは計算によって求めるが、上限は20mとなる。
また、「隙間あり天井」は地震力のほか風圧力に対する検討も行えば屋外でも適用できますが、「隙間なし天井」の仕様ルートは、屋内に限定されています。

 

計算ルート

【計算ルート】では、構造計算によって構造耐力上安全であることを確かめることにより、【仕様ルート】の仕様規定を除外することができます。天井が20kg/㎡を超えたり、吊り長さが3mを超えるなど、仕様ルートの仕様規定への適合が難しい場合は、【計算ルート】により設計します。
【計算ルート】には、水平震度法、応答スペクトル法、簡易スペクトル法があります。
水平震度法では、斜め材の組数の算出までは【仕様ルート】とほとんど同じですが、接合部や部材の断面算定する必要があります。
また、柱(柱芯)のスパンが15mを超える場合には、水平方向の地震動によって励起される鉛直振動の影響が無視できないため、1以上の鉛直震度を用いた検討が必要となります。

【計算ルート】は、天井面構成部材の各部分が一体となって挙動することを前提条件としているため、システム天井のように、天井板と天井下地材が緊結されておらず、天井面が十分な面内剛性を有していないものは、原則として計算ルートの対象外となっています。

 

大臣認定ルート

【大臣認定ルート】としては、以下の二種類があります。

・時刻歴応答計算を用いた建築物に設ける特定天井として法第20条第一号の規定に基づく大臣認定を受けるもの
躯体が大臣認定を受けるものは、特定天井も大臣認定を受ける。このとき、特定天井は【仕様ルート】や【計算ルート】で設計してもOK。

・天井告示第3に規定されている構造方法によらない特殊な構造の特定天井として令第39条第3項の規定に基づく大臣認定を受けるもの
【仕様ルート】や【計算ルート】によらない特殊な構造の特定天井を設計する場合。

 

免震建築物における特定天井

免震建築物における特定天井の水平震度は、天井を設ける階数に関わらず0.5以上とすることができます。

 

 既存建築物の特定天井の落下防止措置

既存建築物にも特定天井に該当する天井がありますが、基準法上、すぐに現在の特定天井の技術基準に適合させる必要はありません。
ただし、増改築を行う場合は、特定天井に該当する既存天井を、現在の基準に適合させる必要があります。
このうち、令第137条の2第一号から第三号までに定める範囲の増改築については、現在の技術基準に適合させるほかに、落下防止措置を講じることが認められています。

落下防止措置とは、地震時に天井材が脱落したとしても、下に落下しないようにするための措置で、以下のような方法があります。

・天井面の下部にネット又はこれに類する可撓性のある材料を面的に張る
・天井面の上部にワイヤなどを通す

現在の技術基準に適合させるために、斜め材を追加したり、クリップを補強したりするのはなかなか難しいのではないでしょうか。

・既存天井を撤去し、直天井とする。
・落ちてもいいような軽い天井材にする。

などはよく行われているようです。

音楽ホールなどの天井は、音響性能のために天井が重くなり、形状も複雑となるため、吊り天井の特定天井とすると設計が困難となります。鉄骨で組んだぶどう棚に天井を直貼りする直天井化(準構造化とも言われる)するケースが多いようです。

 

【参考文献】

・一般社団法人建築性能基準推進協会「建築物における天井脱落対策に係る技術基準の解説」
・日本建築防災協会「天井の耐震改修事例集」

【その他参考になるサイト】

・株式会社 桐井製作所 天井の耐震対策 ‥各ルートの内容がきれいにまとめられています。
三洋工業
ロックウール工業会 ‥天井に関する資料のダウンロードができます。
・日本パーティション工業会 間仕切の耐震性能についての考え方

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