Last updated on 2022年9月5日
※何年か前に投稿していたものですが、一部文章に分かりづらい表現がありましたので、修正しました。
電算のソフトに「浮き上がりを考慮するorしない」という入力項目があると思います。
浮き上がりを考慮するorしないとはどういうことかというと、
浮き上がりを考慮する … 変動軸力による浮き上がり力が長期支点反力(基礎自重含む)を超えた時に、支点の鉛直変位の拘束を解除する。
浮き上がりを考慮しない … 支点の鉛直変位を拘束したままにする。
ということです。
「浮き上がりを考慮しない」というのは、転倒しそうになっても、転倒させないように足元をつかんだままにしておくということです。
静的荷重増分解析で、耐震壁付きのフレームにおいて浮き上がりを考慮するとどうなるでしょうか。
浮き上がると踏ん張りが効かなくなるので、浮き上がった箇所の耐震壁は効きが悪くなり、ほかの耐震壁や柱がそれ以降の水平力を負担するようになります。
(片足を浮かした状態で横から押されるとすぐに倒れそうになりますよね。)
一方、浮き上がりを考慮しないとすると、耐震壁が水平力を負担し続けますから、せん断破壊(脆性破壊)が生じてFDランクとなる可能性が高くなります。
静的荷重増分解析で浮き上がったからといって、実際に地震を受けた時に浮き上がるのかというと、「浮き上がらない可能性のほうが高い」です。(実際の地震力は動的なものであるため)
つまり、浮き上がりを「考慮しない」で計算するほうが実情に合っていて、安全側の計算でもあるといえるのです。
ということで、Ds算定時には浮き上がりを「考慮しない」として計算することになっています。(ちなみに、浮き上がりに対するDs値は設定されていませんよね)
同様の理由で、保有水平耐力算定時にも、浮き上がりを「考慮しない」として計算するほうが安全側であるという考えがあります。(黄色本p.393、p.398に解説あり)
じゃあ、浮き上がりを「考慮する」必要は全くないのかというと、ちょっと違います。
一次設計時にも浮き上がりを考慮するかしないかという設定があり、直接基礎の場合は、浮き上がりを考慮した上で、全体として浮き上がらなければOKです。
全体としてというのは、1スパンの建物の場合、引張側のスパンが全て浮き上がると鉛直、水平変位を止めるものがなくなる状態。こうなると解析自体がストップします。
杭基礎の場合、一次設計時には、杭にかかる引抜き力が引抜き抵抗力を上回らないようにする必要があります。(なお、電算プログラムの中には、初期状態では浮き上がり抵抗力に基礎フーチング自重までは考慮されるが、杭の引抜き抵抗力は、別途、支点耐力を直接入力する必要があるものがありますので要注意です。)
一次設計時に浮き上がりを考慮した解析をするときの注意点は、
①直交方向の応力に対しても断面設計する(浮き上がりが発生した時点で支点を解除するため直交部材にも応力が再配分されるため)
②水平荷重時の正・負加力時に対して検討する。
③浮き上がり抵抗力を適切に入力する。
二次設計時には浮き上がりの他に、圧壊というものがありますね。これはなんでしょうか。
浮き上がりを考慮するべき建物とは?
・新築建物の場合
平19国交告第594号第4第五号に、「転倒に対する検討」についての規定があります。
これは、地上部分の塔状比が4を超えるようなスレンダーな建物は、「Co=0.3以上とした水平力」or「保有水平耐力時」に対して全体の転倒が生じないことを確かめてください。というものです。
具体的には、「浮き上がり」または「圧壊」が生じないことを確かめます。
また、「構造計算適合性判定を踏まえた 建築物の構造設計実務のポイント」(日本建築センター, 平成28年2月10日)によると、
ただし、支点ピンという条件は、基礎は剛強につくることを前提とした仮定とも考えられます。
搭状比が4未満であっても軸力変動が大きい支点では、搭状比が4を超える場合の検討に準じて、保有水平耐力時にも基礎が支持力を失わないことを、法令外の自主的な検討として確認しておくのが望ましいといえます。
搭状比が4未満でも、支点反力のオーダーを確認して、あまりにも大きいようであれば、転倒の検討を自主的にしておいたほうがいいということですね。
・診断、補強物件の場合
既存鉄筋コンクリートの耐震診断基準で、3次診断をする場合。(僕は3次診断はやったことないですが^^;)
鉄骨造の屋体基準(屋内運動場等の耐震性能診断基準)には、F値の表に「引抜きによる浮上り」というものがあり、浮き上がりを考慮することになっています。
(参考文献)
・構造計算適合性判定を踏まえた 建築物の構造設計実務のポイント
・2015年版 建築物の構造関係技術基準解説書
・2015年 構造設計Q&A集
補足
・立体解析で浮き上がりを考慮しないで計算して出てくるマイナスの支点反力=「浮き上がり力」は大きな値になっていても、浮き上がりを考慮すると、それほど大きな値にならないことがあります。これは支点に直交する梁(のせん断力)によって押さえ込みが働いているためです。杭の引抜きが大きくなるような建物の場合、浮き上がりを考慮すれば、直交梁の抑え込み効果により杭にかかる引抜き力を小さくすることができます。実際は浮き上がろうとしても直交梁により抑え込みが働きますので、この方が実状に合っていると思います。その代わり、直交梁にも応力がかかってきますので、直交梁の断面算定が必要です。
・基礎が浮き上がるのは、変動軸力が長期支点反力を上回るためです。長期軸力が小さい箇所に基礎を設けていると変動軸力で浮き上がる可能性が高いです。建物の中間部にあって浮き上がるような場合、逆に基礎をのけてしまう方が合理的な場合もあります。
One Comment
建築の勉強しつつ、
解体業の会社に所属しており、
ご質問したい事があるのですが、
ご質問させていただいてもよろしいでしょうか?